エレベーター 点検の最適化

度かさなる私の言い訳にもかかわらず、アドバイスを与えつづけてくれた文牽春秋の白川浩司氏には、お詫びすると同時にあらためて感謝するしだいである。
九八年八月のはじめ、フロリダのケープ・カナベラルにあるロケットの射場に、ある日本人のグループが集まっていた。
重工業系をはじめとする、日本の宇宙産業の首脳陣である。
八月三日の打ち上げをまつデルタⅢは、ボーイング社のロケットだった。
デルタは、上半身は日本のロケットにそっくりで太くてずんぐりとしているが、下半身は絞り込んだようにほっそりとしている。
その細い下半身を九基の固体ロケット・ブースターが取り囲むという、ちょっと奇妙な形のロケットである。
搭載されていたのは、パンナムサット社のテレビ放送衛星「ギャラクシー10」だった。
打ち上げは、直前になって火工晶の不具合が確認されたために、大幅に延期された。
そしてようやく〝リフト・オフ″を迎えたのは、三週間以上が過ぎた日本時間の八月二十七日、午前十一時十七分だった。
カウントダウン・ゼロと同時に、デルタHはゆっくりと上昇をはじめた。
ところがそれからわずか一分二十秒後、機体は急に姿勢を崩して爆発した。
スペースシャトル「チャレンジャー」の事故を思い出させるような、大爆発である。
原因は、第一段ロケットの姿勢制御システムの異常だった。
事故の状況は、日本のメディアでも報じられた。
テレビのニュースでは爆発の瞬間の映像が出たし、新聞にはロケットの機体が花火のように飛び散る写真が掲載された。
ただしその扱いは、きわめてささやかなものである。
外国でのちょっとした事故、あるいは珍しい映像といったていどの紹介で、それ以上の内容はまったくなかった。
しかしデルタⅢは、ふつうのロケットではなかったのである。
日本の産業にとって、大きな意味をもつロケットだったのだ。
日本の宇宙開発関係者がフロリダの射場に集結していたのは、実はその大きな″意味〟のためだった。
デルタⅢは、形は奇妙だがGTOペイロード、つまり高度二五〇キロの低軌道から高度三六〇〇〇キロの静止軌道へ遜る軌道である静止トランスフ力は静止軌道へは二トン、静止トランスファー軌道へは四トンである。
デルタHのGTOペイロード三・八トンというのはこれとかなりちかいから、けっこうパワーのあるロケットだ。
そういうデルタⅢの打ち上げを、日本の宇宙関係者がわざわざ視察にいったのは、このロケットの「二段目」が、HIHの技術によってつくられた〝日本製″だったからである。
ただし、エンジンはべつだった。
HIHの二段ロケットには日本が自主開発した「LEI5年1月28日「チャレンジャー」打ち上げ失敗いうアメリカ製のエンジンが使われている。
しかし本来の計画では「LE-5A」を搭載し、二段ロケットはそっくり日本製となる予定だったのである。
話は八六年一月二十八日の、スペースシャトルの事故にまでさかのぼる。
そもそもスペースシャトルは、宇宙実験もさることながら、一度に三個の衛星を運び上げて軌道上に放出するという、効率のよい衛星打ち上げを目的に開発されたものである。
ところが「チャレンジャー」の事故によりシャトル利用計画には大きな空自が生まれてしまい、かつてのような使い切りロケットによる衛星打ち上げに重心を移さざるをえなくなった。
そして主力ロケットとしての候補にあがったのは、デルタとアトラス・セントール、それにタイタンだった。
そのころマクダネル・ダグラス社は、デルタを発展させたデルタHシリーズを開発していた。
アトラス・セントールのジェネラル・ダイナミックス社も、ヴァージョン・アップしたアトラスHを開発している最中だった。
しかし、いずれのロケットも打ち上げ能力はそう大きくはない。
スペースシャトルによる衛星輸送がすすんでいる時期に開発がスタートしていたため、使い切りロケットは小型化の傾向にあったのだ。
たとえばアトラスHのGTOペイロード二・七トンはともかくとして、デルタすれば、アトラスHは一・四トンでまあまあだが、デルタHは〇・九六トンというていどだった。
いっぽうスペースシャトルのような輸送システムをもたない日本では、宇宙開発事業団ードは四トンという、大型のロケットである。
デルタやアトラスより、ずっと大きな輸送能力をめざすロケットだった。
こうした状況を考えれば、アメリカのロケット・メーカーがH⊥山に興味をもつのは、ごく自然な流れだといってよい。
マクダネル・ダグラス社が宇宙開発事業団に、HIHの第二段ロケットの購入について非公式に打診してきたのは、一九八八年六月である。
次期開発の商業衛星打ち上げ用ロケットの第二段部分に、H-Ⅲの第二段ロケットをそのまま採用したいという意向だった。
第二段ロケットとは、エンジンとタンク系統、それに衛星を収納する直径四メートルのフェアリング、姿勢制御のためのガスジェット装置などである。
ひらたくいえば、HIHロケットの上半分すべてだ。
その第二段のエンジンLEI5Aは、日本が自主技術で開発した液体エンジンである。
推進薬、つまり燃料に液体水素と液体酸素をつかうLE15Aは、再着火が可能という、ほかにはない特長をもっていた。
一般に宇宙輸送用のロケットには、二段式と三段式がある。
構造からいえば当然ながら二段式のほうがシンプルだが、速度を出しやすいのは三段式のほうだ。
そもそもロケットに要求される能力というのは、一にも二にも速度である。
速度がなければ、ロケットは地球の引力を振り切りながら、軌道上へ衛星などを運びあげることはできない。
そしてその速度を出すためには、エンジンのパワーが重要になる。
たとえば三段式のロケットを打ち上げるとき、まず第一段ロケットで高度一〇〇キロ以上のところまで上げてしまう。
重力はもちろんだが、空気抵抗が大きな領域を、とにかく抜け出してしまうのだ。
ロケットが、もっともパワーを必要とするのもこの段階である。
したがってエンジンは大型だし、消費燃料も多いためにタンクも大きい。
そのために第一段は、ロケットの全長の半分以上をしめるほどに大きく、重い。
そういう第一段を分離するとロケットは身軽になり、空気抵抗も小さくなり、第二段のエンジンによってさらに効率よく高度を上げてゆく。
そして重力の影響が小さくなったところで、第二段も分離する。
ついで第三段のエンジンで一気に加速し、高度と速度をかせぐ。
こうして充分な高度と速度に達したところで、第三段も分離され、衛星は宇宙の一人旅へと発ってゆく。
これに対し二段式のロケットの場合は、第一段だけでかなりの高度まで上げてしまう。
三段式のロケットが第二段で到達する高度まで、あるいはそれ以上の高度まで、第一段ロケットの推力だけで上げるのである。
しかしその推力をエンジンだけに依存すれば、どうしても第一段が大きくて重くなってしまう。
そこでいくつかのブースターを、つまり固体補助ロケットを活用する。
ロケットの発射から高度四〇キロていどまでの、もっともパワーを必要とする領域を、ブースターによって後押しするのだ。
こうして高度まで上がったところで、第一段ロケットは分離される。
それから第二段のエンジンにより、さらに高度を上げながら加速し、衛星を軌道へと送り込む。
ふつうの第二段なら、ここまでである。
ここでエンジンの燃焼は停止し、ロケットの役割は終了する。

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